京阪三井寺駅と江若三井寺下駅が逆の時代があった？

反対に書かれた三井寺と三井寺下

この説は、「地図で歩く路面電車の旅」内の昭和２年の大津の地図に三井寺と 三井寺下が逆に書かれているのを見つけた(この地図は同じ作者の「地形図で たどる廃線跡西日本編」にも見られる)。最初は単なる誤植と思っていたら、 大津の市立図書館所蔵のた昭和４年の地図でも同じように描かれており、「車 両発達史シリーズ１. 京阪」や「京滋の鉄道の歴史」にも京阪側を三井寺下と (一貫ではなく混用しているが)記述している。そう考え出すと祖父がよく京阪 駅を三井寺下と言い間違えてたような気がしてきた。そこで興味を持って調べ 始めた。以下では結論に至るまでの調査過程をややまわりくどく書いていてる が、結論だけ知りたい方は最後の段落だけ読んでいただけばおわかりいただけ る。
(なお、以下では「大津電車」→「琵琶湖汽船」→「京阪」と変遷した駅の方 を「京阪駅」と書く。)

江若駅は開業時「三井寺」

まず、江若駅が大正10年3月15日の開業時に「三井寺」であったことは種々の 資料からほぼ間違いが無い(後に書かれた二次史料には開業当初より三井寺下に 統一されているものも存在する)。まず、何のしがらみもなく命名したとしたら 普通は接尾語を付けないのでこれは良いだろう。そのため焦点は「京阪駅が 三井寺下を名乗ったことがあるか」という点となる。

京阪駅が「三井寺下」を名乗った証拠？

まず、大津歴史博物館で1998年に開かれたの「大津の鉄道百年」展の小冊子 には大津電車が三井寺まで開業(大正11年5月15日)した際の絵はがきが載って おり、ここにははっきりと「三井寺」と書かれている。また、同じ冊子に昭和 初年の琵琶湖汽船時代(昭和2年1月21日〜4年4月11日)の回数券が載っており そこに書かれているのも「三井寺」である。また、京阪の社史には一貫して 「三井寺」と書かれていことから、これらの一次資料により、「京阪駅が 『三井寺下』を名乗っていたとしたら琵琶湖汽船時代(昭和2年1月21日〜 4年4月11日)のしかも一時期だけしかない」というところまで絞られた。 また、三井寺下と書いている本も、その記述が琵琶湖汽船時代の 「三井寺下-松ノ馬場延長(昭和2年5月15日)」という記述に集中している ことから、その可能性はあると考えられた。

「下」の付く駅

一方大津線には「下」が２つあった。天文台下(後の九条山)、長等公園下 (後の上栄町)である。このことから、「下」は「直下」の意味が強く、格上あ るいは格下をあまり意識させなかったようである。このことからも直下に近付 いているのはどちらかというと京阪駅であるとも言える。

復刻版時刻表他に見る駅名

この時期(大正10年〜昭和4年)には新人物往来社版とＪＴＢ版を合わせて5冊 が発行されている。それによると、

江若
京阪
地図 本文 地図 本文
大正10年9月 三井寺 三井寺 未開業 未開業
大正12年7月 三井寺 三井寺 記載無 記載無
大正14年4月 三井寺 三井寺 三井寺 三井寺
昭和2年1月 三井寺下 三井寺下 記載無 三井寺
昭和4年5月 三井寺下 三井寺下 記載無 三井寺

と、京阪駅を「三井寺下」と書いている個所が存在しない。 (しかしながら、実は昭和5年10月号の地図には両駅とも「三井寺下」とか書 かれている。本文は正しく書かれているので、誤記と思われる。)

江若駅の三井寺下への改称

「江若鉄道車両五十年史」内に収録されている大正15年8月の時刻表で もうすでに江若駅が「三井寺下」になっている。これらの記述を全て信じると 江若駅が「三井寺」→「三井寺下」に改称したのは大正14年4月以降、15年8月 以前のこととなる。14年の4月(時刻表の〆切後)には新浜大津への延長線が 完成しているので、その際に改称されたものと思われる。
さらに、全てを信じると、京阪駅も後を追って改称し、「三井寺下」になった 後、再び「三井寺」に戻ったことになる。果してそんなことがありうるのだろ うか？

新修大津市史の記事

歴史に立ち戻って図書館で大津市史をひもといてみた。３種類の版があるが最 も新しい「新修大津市史」に三井寺駅に関する記述を見つけた。 「浜大津より北国町三井寺下を通り新大津駅への延長」「三井寺下-坂本間延 長」という計画に関する当時の新聞の記事の引用が紹介されていた。どうやら 計画時の仮称が三井寺下だったらしい。

結論

「京阪駅の建設時の仮称が三井寺下だった」だとすると全てがうまく説明が付 く。「車両発達史」と「京滋鉄道の歴史」は「新修大津市史」の引用で「三井 寺下」になっている。また昭和初期の地図は構想時の駅名を紹介したに過ぎず、 祖父の言い間違えも最初の擦り込みが江若＝三井寺、京阪＝三井寺下だったと 考えるとつじつまが合う。そして「京阪三井寺駅は開業以来一貫して三井寺駅 である」。というのが現在私が信じている結論である。

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